「近距離・一人移動」を活性する次世代モビリティが地域の回遊性を向上
多様化するライフスタイルへの対応はパブリックな公共交通システムに限った課題ではありません。柏ITSスマートシティでは、新しい視点でのプライベートな次世代モビリティの研究・開発が進められており、着実に実用化に近づきつつあります。
公共交通システム同様、これまでのモビリティ開発は、家族単位による中~長距離の移動を前提に、4~7人乗りのファミリータイプを主流とした開発・生産が進められてきました。しかし、実際には平日の昼間の買い物や通勤では1人1台のモビリティを利用する機会が多く、大きな無駄を生み出し、それが渋滞やCO2増加の大きな原因となっています。また、行楽などの特別なケースを除くと日常的で身近な移動がほとんどを占めるにもかかわらず、近距離の一人移動に対応する小型モビリティの開発が遅れていることは明らかです。
柏ITSスマートシティでは、こうした近距離での一人移動を活性するための次世代モビリティの実証実験を進めています。高齢者でも操作が簡単で、手軽かつ安全に利用できる車両の開発や、エネルギー効率を最大限に高めた新しいモビリティなど、次世代の公共交通システムと組み合わせることでより利便性を高め、地域の移動・回遊性を高めていきます。
超小型モビリティの社会実装
1.外出をもっと身近に!
東京大学の「明るい低炭素社会の実現に向けた都市変革プログラム」と、「高齢社会総合研究機構」では、高齢者の方々がもっと気軽に外出するには、どのような乗り物がよいのかを研究しています。小型・軽量で安全性が高く、家庭で充電ができるような電気自動車であれば、毎日の利用に大変便利です。超小型の電気自動車は、取り回しが楽で狭い道路にも入っていける、維持費が安いなどのメリットの反面、一回充電で走れる距離が短い、充電時間が長い、衝突した時の不安、法律上、一人乗りのみで馬力が小さい、などの課題点もあります。
本グループでは、現在、「コムス(トヨタ車両製)」という、市販の超小型電気自動車を使って、このような小型の電気自動車が毎日の利用に便利に使えるか、安全性に問題がないかなどを調べています。写真の車両には、ドライブレコーダという装置を取り付け、前方の映像やスピード、走行した位置などを記録し、分析しています。
実験は、下の地図のように東大・柏キャンパスを中心とした地域で行っています。この地域には、住宅地、田園・平地林地域(大青田)、幹線道路(国道16号)、駅前商業地(柏の葉キャンパス・JR柏駅)などがあります。そのような地域で、日常のいろいろな用事をこなすのに便利かどうか、危険はないかを、実際に走行して調べています。
2.超小型電気自動車の発展性
現在、日本でも、電源に蓄電池を用いた「純電気自動車」が登場しています。モビリティグループでは、従来の見方にとらわれない、新しい観点で、純電気自動車を社会に普及させる研究をしています。研究テーマの一つは、「ワイヤレス給電」というもので、これは別のページに詳細があります。もう一つは、多目的な専用のタブレット型端末を用いた、カーシェア予約・情報提供システムです。これは、利用者が「低炭素パッド」と呼ばれる専用のタブレット端末を持ち、カーシェアの予約を行ったり、実際に乗るときは、それが電源キーの代わりになったりするものです。また、走行中はこの端末がドライブレコーダ(走行中の映像や位置・速度などのデータを記録する装置)になり、行先までの道路状況や推奨利用施設などの案内をすることもできます。
3.さまざまな用途の提案
現在の鉛蓄電池式やリチウムイオン電池式の電気自動車は、航続距離や充電時間などの点で、従来の自動車と同様に使うためにはまだ課題が残ります。モビリティグループでは、車幅の狭い超小型電気自動車「コムス」の特性を生かして、社会への普及を図るために、これまでにない新しい使い方を提案しています。軽トラックも入れない木々の繁った山林に入って山林整備作業をする「山コムス」、郊外住宅地での屋外作業に使う「里コムス」、柔らかい畑地でトマト収穫をする「トマコムス」などは、超小型電気自動車の用途を都市でなく山林・農地に展開する試みです。
また、2人乗りの車両も開発し、実際にうまく使えるかどうかの調査も行っています。2人乗りの車両は、夫婦での利用、家族の送迎、病院への送り迎えなどに利用できます。後部にはフックを付けることができ、車いすも運ぶことも可能です(「ケアコムス」と呼んでいます)。この車両は、2人乗りの状態で公道走行ができるように、認定を申請する予定です。
さらに、2人乗り車両を発展させて、リアシートに子供2人を乗せられる「ママコムス」という車両も試作しています。このような車両が安価に提供されれば、危険な自転車の母子3人乗りを減らすことができるでしょう。 このように、車幅の狭い超小型電気自動車は、これまでにない用途を考えることができ、今まで適切な移動手段がなかったためにできなかった活動が無理なくできるようになります。山林や農地の活性化につながればCO2吸収量の増加が期待でき、都市生活が円滑になれば、都市構造の変革や都市排出CO2の削減も期待できます。
自動走行型コミュニティカート -運転手不要でコミュニティ内を走行する「自動走行型コミュニティカート」の予備実験-
電磁誘導技術と小型電動カートをもちいて、コミュニティにおける高齢者や子どもの安全・手軽な移動をサポートする次世代型モビリティ・コンセプトの予備検証を2013年10月より開始します。自動走行型コミュニティカートは、電動カートが電磁誘導線を敷設したルート上を自動走行する仕組みで、利用者はルート間に複数設置したステーションで車両を呼び出し、行き先を設定します。車両移動中に歩行者が近づくと自動停止するなど安全性にも配慮した制御技術が搭載されます。
本取り組みは、超高齢社会に対応する新たな価値・産業・イノベーションの創出を目指す「東京大学産学連携ジェロントロジー・ネットワーク」が柏ITS推進協議会と連携して実施しています。まずは総戸数約880世帯を有する柏の葉キャンパス駅近くの集合住宅エリア「パークシティ柏の葉キャンパス二番街」を対象地として予備実験を行い、2014年度の本格的な社会実験展開を視野に入れて利用ニーズや利便性・安全性の事前検証を進めています。年齢やお身体の状態、たくさんの荷物やお子さん連れによって生じる交通不便を解消して市民の外出機会を増やすことで、地域活性化や交流促進につながる社会システムの創出をめざします。