Solution 2 交通状況を再現するITS基盤情報システム

様々な交通データから地域の「今」の交通実態を再現

 地域の交通実態を詳しく把握し、移動・交通情報の精度を向上させるためには、さまざまな主体が収集する交通情報を一元的に集約し、時々刻々と変化する交通実態を俯瞰的かつ網羅的にモニタリングする必要があります。しかし、「A地点の交通量データ」や「B地点からC地点まで移動するために要する時間のデータ」など、多様な主体が多様な形で収集する交通情報を単に集めるだけでは、地域の「今」の交通実態を分かりやすく把握することはできません。
 また、多種多様な交通情報を集約した場合でも、収集できる情報には限界があり、地域の全ての道路の混雑状況についてデータを集めることはできません。したがって、交通情報を収集できない路線については、何らかの形で交通実態が分かるようにする必要があります。
 柏ITSスマートシティでは、さまざまな時間単位や空間単位で収集される交通情報を統合して地域全体を俯瞰的かつ網羅的に把握するための基盤システムを構築するとともに、人々の交通行動を再現するためのシミュレーション技術を開発しました。それにより、交通情報を収集することができる路線については、詳細な交通状況を再現し、交通情報を収集することができない路線についても、交通状況を推定できるようになり、地域の「今」の交通実態を再現することを可能としています。

時空間交通情報統合データベース -時空間で変化する交通状態を俯瞰的、網羅的に融合する情報基盤-

 千葉県柏市域を対象に、時空間で変化する交通状態の俯瞰的,網羅的な情報を融合するデータベースです。
 多種に及ぶ異なる交通データ(地点交通量、OD交通量、プローブによる速度・旅行時間等)を統合し、シミュレーションのインプットとして取り込みやすいデータに変換・蓄積するため、空間軸・時間軸で異なるデータ内容や周期の相違を解消するデータベース技術を開発し、安定かつ持続可能な運用を実現しています。
■空間軸…地点(点)、リンク単位(線)、メッシュ(面)の異なる空間的表現方法のデータ間整合を図っています。
■時間軸…複数の時間断面での経年変化を容易に行えるよう、空間軸(DRMリンク)のバージョンで管理しています。
 例えば、断面の交通量データは国交省の常時観測地点データや路側からの画像センサによる交通量データ等、複数存在します。これらの断面交通量集計データのフォーマット整合を図るため、年月と種別(1=常観、2=画像センサ…)の付与によりデータを統合しました。さらに空間軸の観点で、地点IDをキーとした感知器情報を設定し、設置地点の緯度経度に該当するリンクIDを事前に登録し、ナウキャストシミュレーションで扱いやすい形式としています。

 オフラインのデータとしては、過去のITSスポットからのプローブ情報やホンダ・インターナビ、NRIユビークリンクなどのプローブデータを統合して蓄積し、ナウキャストシミュレーションの統計ベースでの基礎データに活用しています。
 オンラインのデータとしては、以下のデータを取得し、ナウキャストシミュレーションの動的な情報生成に役立てています。

  1. ITSスポットの道路プローブ…国土交通省関東地方整備局より柏市域(5メッシュ範囲)におけるITSスポット対応車両が通過した緯度経度情報(個人特定情報は除外)
  2. ナンバープレートセンサ…国道6号・16号の4断面8方向の通過OD交通量や旅行時間データ
  3. アプリからの移動軌跡データ…既往メディア配信システムで開発した市民向けスマートフォン・アプリを起動して移動した際の軌跡情報

本データベースは以下のサーバで構成しています。
■受信サーバ…柏市域の路側からの画像センサやナンバープレートセンサ、ITSスポットからの道路プローブの情報をオンライン(FTP)で収集
■DBサーバ…受信サーバのオンラインデータを共通する分類テーブル

■時空間交通情報統合データベースの概念図

■空間軸の統合イメージ

■ステム構成 (関連部分含む)

柏ナウキャスト交通シミュレーション -リアルタイム交通データとシミュレーションモデルの同化によるエリア交通状態の推定-

 各種の施策評価や、道路交通の安全・円滑な運用を目的として、従来より、画像や超音波式の交通量・速度センサを路側に設置して、主要な道路の交通状況を把握していました。また、近年では乗用車やタクシー、バスなどの業務車両の位置情報から速度情報を得るプローブ車両データも利用されるようになってきました。
 しかしながら、これらの交通データは、時間・空間で広がる道路交通状態の一部分を観測したものであり、路側にセンサが設置されていなかったり、プローブ車両が通過しなかった路線の状態を知ることはできません。また、「柏市全体でどれくらいのCO2が自動車から排出されているか」といった、交通全体に関する指標も知ることができません。
 「柏ナウキャストシミュレーション」は、様々な交通データをリアルタイムに交通シミュレーションに取り込み、その日の交通状況を再現する技術です。具体的には、柏市全体を1km四方のメッシュに分割し、シミュレーションで計算される各メッシュの交通流動状態が観測データからわかる流動状態と合致するよう、15分毎に計算条件を調整しています。

 交通シミュレーションには、ドライバーの行動や自動車の挙動がモデル化されているので、観測データとの整合が十分に得られれば、観測データが得られていない道路についても、交通状況が推定できるようになります。
 この技術を使うことで、計測原理が異なる路側センサデータとプローブデータを統合して扱うことができるようになり、より効率的なデータ活用が可能になります。また、仮に大規模災害のような特殊な状況で、路側センサデータが得られず、交通量に関する情報が得られないプローブデータだけしか利用できない場合でも、交通状況の推定が可能です。
「柏ナウキャストシミュレーション」では、任意の道路区間や経路について結果が出力できるほか、シミュレーション中の車両1台ごとの結果も得られます。これらの結果は「生活活動情報生成システム」ほか、様々なサービスで利用されています。

■柏ナウキャストシミュレーション動画

■柏ナウキャストシミュレーションの出力例

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